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浦和地方裁判所 平成6年(行ウ)3号 判決

原告

渋谷登美子

小林悦子

奥田やよい

原告ら訴訟代理人弁護士

秀嶋ゆかり

佐竹俊之

被告

埼玉県知事

土屋義彦

右訴訟代理人弁護士

飯塚肇

被告指定代理人

三井俊秀

外五名

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告が平成六年二月一〇日にした生活クラブ生活協同組合の仮理事選任処分は無効であることを確認する。

二  被告は、生活クラブ生活協同組合が平成六年五月六日に実施した役員選挙が生活協同組合法に適合するかについて検査せよ。

第二  事案の概要

一  本件は、消費生活協同組合法(以下、「法」という。)に基づき設立された組合である生活クラブ生活協同組合(以下、「本件組合」という。)の組合員である原告らが、同組合の所管行政庁である被告に対し、法第四二条、民法第五六条によりなされた仮理事選任の無効確認を求めるとともに、右選任後に実施された役員選挙の適法性について法第九四条に基づき検査することを求めるものである。

二  本件に関する法制

1  法第四二条は、民法第五六条を準用し、組合において理事が欠け、遅滞のため損害を生ずる虞れがあると認められる場合、当該行政庁は、利害関係人の請求により又は職権をもって仮理事を選任すると定めている。

2  法第九四条第一項は、組合員が、総組合員の一〇分の一以上の同意を得て、組合の業務等が法令等に違反する疑いがあることを理由として検査を請求した場合、当該行政庁は、その組合の業務等の状況を検査しなければならないと定めている。

三  争いのない事実

1  本件組合における役員の選出は、総会に代わるべき総代会において行われており、第一九回通常総代会において、理事及び監事の選出についての議案が議決され、理事及び監事が選出された。そこで、原告らは、法第九六条に基づき、本件組合の所管行政庁である被告に対し、平成五年七月五日、右議案の議決及び役員当選の取消しを請求したところ、被告は、平成六年二月一〇日、右議案の議決及び役員当選を取り消す決定をした(以下、「本件当選取消処分」という。)。

2  本件当選取消処分に先立ち、原告渋谷登美子は、平成六年一月二五日、被告に対し、前記役員当選が取り消される場合又は前記役員が辞職する場合には、理事の欠員が補充されるまで業務を執行する仮理事を選任することを請求し、原告奥田やよい及び同小林悦子は、同年二月一日、被告に対し同様の請求をした(以下、併せて「本件仮理事選任請求」という。)。

被告は、本件当選取消処分をした平成六年二月一〇日、仮理事として二二名を選任し(以下、「本件仮理事選任処分」という。)、右二二名のうち一七名が仮理事に就任した(以下、「本件仮理事ら」という。)。その後、臨時総代会が平成六年五月六日に開催され、右総代会において役員選挙が行われた(以下、「平成六年選挙」という。)。その結果、理事二二名及び監事五名が選出され、本件組合の役員に就任したので、本件仮理事らはいずれも退任した。

3  原告らは、法第九四条第一項に基づき、平成六年二月七日、被告に対し、本件組合の業務が法及び定款に違反する疑いがあることを理由として、本件組合の業務及び会計の状況を検査することを請求した(以下、「平成六年二月検査請求」という。)。

そこで、被告は、平成六年三月一五日及び一六日、本件組合の業務及び会計の状況を検査し、右検査の結果改善を要すると認めた事項について、同年六月九日、本件組合に対し、生協法第九五条第一項に基づき改善措置を講じることを命じた。

4  その後、平成七年五月二九日に本件組合において通常総代会が開催され、総代選挙規約及び役員選挙規約(以下、「本件規約」という。)が全面改定されるとともに、役員選挙によって新たに役員が選出された。

四  争点

1  請求の趣旨第一項の訴えの適法性。

2  請求の趣旨第二項の訴えの適法性。

3  本件仮理事選任処分は無効であるかどうか。

4  被告は、本件組合が平成六年五月六日に実施した役員選挙の適法性について検査をする義務を負うかどうか。

五  争点についての原告らの主張

1  争点1について

(一) 本件仮理事選任処分は、法第四二条、民法第五六条に基づいてなされた処分であり、本件組合の組合員の権利ないし利益に影響を与えるから、無効確認訴訟の対象としての処分にあたる。

(二) 法は組合に対する運営参加権として、組合員一人一票の役員選挙権を認めており、適法な選挙手続により役員選挙を実施できる利益は、単なる反射的利益ではなく、法によって保護された権利である(以下、かかる権利を「選挙権」という。)。ところが、役員選挙区及び選挙区内役員定数は本来役員選挙規約に記載し、総会で決すべき重要事項であるにもかかわらず、本件規約はこれを理事会の決議事項としており、そのため原告らの有する選挙権を侵害している。そこで、原告らは、本件仮理事選任請求において、本件規約の違法性を指摘し、適法な役員選挙を実施するに適した公平な第三者を仮理事に選任することを求めた。ところが、本件仮理事選任処分において、本件規約の違法性は不問にされたうえ、無効な役員選挙を実施した当事者である平成四年度の理事が仮理事に選任された。したがって、本件仮理事選任処分は、原告らの請求に対する拒否処分に他ならず、右処分によって原告らの選挙権は侵害されたから、原告らは右処分の無効確認を求める法律上の利益を有する。

(三) 平成六年選挙後、前記仮理事らは退任したけれども、本件仮理事選任処分による権利侵害は、右選挙後も継続しているから、原告らが本件仮理事選任処分の無効確認を求める利益は未だ消滅していない。すなわち、本件仮理事選任処分の結果、本件規約の違法が是正されず、平成六年選挙も違法に実施されたため、役員選挙区及び選挙区内役員定数は仮理事会により決定され、その内容も役員構成比などにおいて不平等な点があり、及び公職選挙法第四六条第三項が記名投票を禁止しているにもかかわらず、記名投票によって行われた。そして、右選挙後においても、本件規約中の理事会が役員選挙区及び選挙区内役員定数を決定するという規定は現在に至るまで改正されておらず、それ故、役員選挙手続の公平性、平等性、自由性(投票の秘密性の権利侵害)が実現されていないから、原告らの選挙権の侵害は依然として継続している。したがって、原告らは、本件仮理事選任処分の無効確認を求めるについて訴えの利益を有する。

(四) 本件においては、行政事件訴訟法(以下、「行訴法」という。)第三六条後段の要件が存在する。

原告らが平成六年選挙の取消訴訟を提起することが可能であるとしても、行政処分の無効を確認することが原告らの権利の救済に必要かつ適切であるときは、当該処分又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達成することができない場合に当たるというべきである。仮に平成六年選挙の取消訴訟によって右選挙が取り消されたとしても、その結果として右選挙の実施前の状態に戻るだけであって、本件規約の違法性は確認されず、役員選挙手続の公平性、平等性、自由性(投票の秘密性)は回復されないから、原告らの選挙権の侵害は解消されない。本件組合において適法な手続による役員選挙を実施し、原告らの選挙権の保障を回復するためには、被告が監督官庁としての責務を果たし、本件規約の違法性を指摘することが不可欠である。ところが、被告は、本件仮理事選任処分において、本件規約の問題に触れず、公平な第三者でない者を仮理事として選任するなど、監督官庁としての責務を自ら果たそうとしないのであるから、被告の右措置を批判しその違法性を確認しない限り、被告に監督官庁としての責務を果たさせることができない。

被告の行った拒否処分の無効が確認され、これに伴い被告が改めて平成四年度役員選挙の違法ならびに選挙規約の違法を確認する処分を行ったうえ、第三者から構成される仮理事を選任し、その結果是正された選挙規約に基づき役員選挙のやり直しが実施されることにより、初めて原告らの選挙権が回復されるものである。

したがって、本件仮理事選任処分の無効確認こそが、紛争を最も直截に解決するから、本件においては行訴法第三六条後段の要件が存在する。

2  争点2について

原告らは、本件組合の運営を適正にするため、法第九四条に基づき、監督官庁である被告に対し行政介入を求める権利を有している。したがって、原告らが被告に対して本件規約が法に違反することを指摘し、右について検査することを求めた場合、被告は、法第九四条、第九五条第一項第一号により本件規約の違法性について検査し、本件組合に改善措置を講じさせる義務を負う。

ところが、被告は、原告らが平成六年二月検査請求において本件規約の違法性について検査することを求めたにもかかわらず、これを無視し、あえて本件規約の違法性について検査せず、何ら改善措置を講じないまま放置している。このように被告は監督官庁としての第一次判断権を違法に行使して当然なすべき義務を怠ったものであるから、原告らは、法第九四条等が組合業務等に対する行政介入請求権を組合員に与えた趣旨を没却させないため、裁判所に対し、被告の右判断の違法について司法判断を求めることができるというべきである。そして、原告らは、本件仮理事選任処分の無効確認を求めることにより、組合の参加運営に関わる制度を役員が決定するとの不利益を排除することをも目的としているところ、被告の本件組合に対する監督権の発動を求めることによってのみ、右目的を達成することができる。

したがって、本件検査を求める訴えは適法である。

3  争点3について

本件規約は、従前、「理事及び監事の定員は定款二八条の規定に従って、総代会において決定し総代会において選挙する。」と規定していたところ、平成四年度理事会によって改ざんされ、「理事及び監事の定員は定款第二八条の規定に従って理事会において決定し、総代会において選挙する。」と変更された。役員選挙区の特定及び選挙区内役員定数の配分は、本件組合運営制度の根幹となるものであり、本来規約に規定されるべきである。このような重要事項に関する決定を理事会に委ねることは、組合員の選挙権、議決権等組合運営に参加する権利を損なうものであるから、規約の改廃と同様に、法第四三条第一項第二号に従って総会の議決を経なければならないのであって、右変更後の本件規約は、右条項に違反し、無効である。

原告らは、本件組合において役員選挙が法に則って民主的に行われるために、本件当選取消請求において、本件規約の違法性を指摘したが、被告は、本件当選取消処分に当って、役員選挙手続が本件規約(改ざん後のもの)に違反することのみを理由とし、本件規約の違法性を指摘せず、右取消を前提としてなされた本件仮理事選任処分においても、本件規約の違法性を問題としなかった。また、本件組合の監督庁である被告は、本件当選取消処分に後続してなされる役員補充選挙が法に則って民主的に行われるために仮理事として学識者等公平な第三者を選任すべき義務を負っていたにもかかわらず、本件規約を改ざんし無効な役員選挙を執行した当事者である、平成四年度の理事であった者を仮理事に選任した。このような仮理事らが公正な役員選挙を実施することは不可能であって、実際にも、本件仮理事らによって実施された平成六年選挙は公正を欠いている。

以上のとおり、本件仮理事選任処分には、本件規約の違法性を不問とし及び平成四年度の理事を仮理事として選任するという重大かつ明白な瑕疵があるので、無効である。

4  被告の検査義務の存否について

組合員が法第九四条に基づき検査請求をした場合、当該行政庁は、請求に応じて検査を行った上、法第九五条により必要な改善措置を採る義務を負う。原告らは、平成六年二月七日の検査請求において、被告に対し、本件規約が前記のとおり法に違反することを指摘し、これについて検査することを求めたのであるから、被告は、本件規約の違法性について検査し、右違法性を是正する措置を採る義務を負っていた。ところが、被告は、平成六年三月に本件組合の業務及び会計の状況を検査したものの、本件規約の違法性については全く検査せず、右違法性は是正されないまま放置された。したがって、被告は、前記義務を未だ果たしていないから、平成六年五月六日に実施された役員選挙の違法性について検査すべき義務を負う。

六  被告の主張

1  争点1について

(一) 本件仮理事選任処分は、原告らの請求に基づくものではなく、本件無効確認訴訟の対象となる行政処分は存しない。

法第四二条、民法第五六条に基づく仮理事の選任請求は、理事に欠員が生じたことを要件としているところ、本件仮理事選任請求がなされたのは本件当選取消処分の前であるから、右請求の時点においては未だ理事の欠員は生じていなかった。したがって、本件仮理事選任請求は、法第四二条、民法第五六条に基づく請求ではなく、事実上の申立てに過ぎない。そこで、被告においても、本件仮理事選任処分は職権によって行ったのであって、本件仮理事選任請求に基づいて行ったものではないから、本件仮理事選任処分は、原告らの請求に対する拒否処分ではない。また、仮に本件仮理事の選任が本件仮理事選任請求に基づくものとしても、右選任は、事実上の申立てに対応した事実上の行為に過ぎないものであって、法令に基づいてなされた行政上の処分ではない。

次に、本件仮理事選任請求は、選任候補者を従来の理事でない公平な第三者に限定して請求したものではなく、単に仮理事を選任することを求めるものに過ぎないから、被告が仮理事を選任した以上、本件仮理事選任処分が原告らの請求に対する拒否に当たるということはできない。したがって、原告らの請求に対する被告の拒否処分は存在しない。

(二) 仮に、本件仮理事の選任に処分性が認められるとしても、本件組合においては、平成六年選挙によって新たに役員が選任され、本件仮理事らは既に退任した。そうすると、本件仮理事選任処分の無効が確認されても、右選挙の効力には影響が及ばないから、法第四二条、民法第五六条の「理事ノ欠ケタル場合」に当たらず、それ故被告が新たに仮理事を選任する余地はない。したがって、原告らは、本件無効確認を求めるについて訴えの利益を欠くものである。

(三) 本件無効確認の訴えには、行訴法第三六条後段の要件は存しない。

行政処分の無効確認の訴えは、当該処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟によっては、その処分のため被っている不利益を排除できない場合に限り提起することができる。

本件において、原告ら主張のように本件仮理事選任処分により選任された仮理事らによって違法な役員選挙が行われ、これにより原告らの選挙権が侵害されたとすれば、原告らは、右選挙の無効等現在の法律関係を争うことにより、右選挙権が侵害された状態を排除することができる。

また、原告らの訴えの目的が本件規約の違法を正すことにあるとしても、本件仮理事選任処分の無効確認により本件規約が是正されるものではなく、むしろ、原告らは、本件規約の無効確認訴訟を提起するか、あるいは本件規約の違法・無効を前提として本件規約に基づき行われた選挙の効力を争うことよって目的を達することができるから、このような訴訟の方が本件仮理事選任処分の効力を争うよりも直截的で適切な解決手段である。

したがって、本件は、行政処分の無効確認の訴えを提起できる場合に当たらない。

2  争点2について

消費生活共同組合の業務又は会計の状況の検査は、当該行政庁がその組合監督権に基づいて行う行政上の行為であるから、被告に対して本件組合の役員選挙の適法性の検査を求める本訴は、行政庁に対し行政上の行為を命ずることを求めるものであって、いわゆる義務づけ訴訟に当たる。

しかし、法第九四条は組合員の当該行政庁に対する検査請求について定めているものであり、裁判所に対する訴えを許容する規定は存しないのであって、組合員が右のような検査請求の訴えを提起し得る実体法上の根拠はない。このような場合、行政庁はその行為について第一次的判断権を有し、右判断権は司法権との関係においても尊重されるべきであるから、行政庁が具体的判断をする前に裁判所において行政庁を拘束するような判断をすることは許されない。したがって、被告に対し法第九四条第一項に基づく請求を経ることなく、直接裁判所に対して被告に検査を命ずる裁判を求める本訴は、行政庁である被告の第一次的判断権を侵害するものであって、不適法である。

また、法第九四条第一項によれば、組合員が当該行政庁に対して検査請求をするためには、総組合員の一〇分の一以上の同意を得ることが必要であるにもかかわらず、本訴は一一〇名の総代のうち三名によって提起されたものであるから、法第九四条第一項の要件を充たしていないことは明らかである。そこで、本訴が適法であるとすれば、法第九四条第一項が右のような要件を定めて検査請求ができる場合を限定した趣旨に反するから、この点においても、原告らの右訴えは不適法である。

3  争点3について

消費生活協同組合の理事に欠員が生じ、仮理事を選任する必要がある場合において、どのような者を仮理事に選任するかは、組合の所管行政庁の裁量権に属する事項である。被告は、本件において仮理事を選任するに当たり、組合活動の維持、運営が円滑に行われるよう理事としての職務経験のある者を仮理事として選任したのであって、その行為は適切である。したがって、被告の裁量権行使において逸脱、濫用はなく、本件仮理事選任処分に重大かつ明白な瑕疵が存しないことは明らかである。

第三  争点に対する判断

一  請求の趣旨第一項の訴えの適否について

1  法第四二条、民法第五六条による仮理事の選任請求は、理事が欠け、後任の理事が選任されるまでの間に遅滞のため損害が生ずる虞れがある場合になし得るものである。ところで、理事が欠けていないにもかかわらず仮理事選任の請求がなされた場合においても、右法規に基づくものとして右請求がなされている以上、その適否が問題になることはともかくとして、これをもって事実上のものということはできない。そして、本件のように全役員の当選の取消しを請求するとともに、右取消しがなされ又は理事が辞職する場合には理事が欠けるため、遅滞のため損害が生ずるとして仮理事の選任を請求したような場合においては、右仮理事の選任請求は、理事の当選が取り消された時に瑕疵が治癒され、適法な請求となるものと解するのが相当である。したがって、本件仮理事選任請求をもって事実上のものということはできない。

成立に争いがない乙第一及び第二号証によれば、被告は本件仮理事選任処分を行うに当たり、これを職権で行うものかあるいは原告らの請求に基づくものかを明示していないことが認められるけれども、被告は平成六年二月一〇日に原告らの請求に基づいて本件当選取消処分をし、これに伴い本件仮理事選任処分を行ったのであり、その際原告らの本件仮理事選任請求は適法になされていたのであるから、本件仮理事選任処分は、本件仮理事選任請求に基づいて行われたものと解するのが相当である。したがって、本件仮理事選任処分は、本件無効確認訴訟の対象としての処分性を有するというべきである。

ちなみに、原告らは、本件仮理事選任処分は本件仮理事選任請求に対する拒否処分であると主張するけれども、被告が本件仮理事選任請求を却下したものではないから、原告らの所期の者が理事に選任されなかったからといって、本件仮理事選任処分をもって拒否処分と解することはできない。

2  訴えの利益について

前記のとおり本件仮理事選任請求は、役員当選が取り消される場合又は役員が辞職する場合に理事の欠員が補充されるまで業務を執行する仮理事を選任することを請求したものであり、被告は、本件当選取消処分を行い、これに伴い本件仮理事選任処分を行ったのであるから、原告らは本件仮理事選任処分によって何ら法的な不利益を被っていないというべきである。

原告らは、平成六年選挙後に仮理事らは退任したが、本件規約の違法が是正されずに平成六年選挙も違法に実施されたから、本件仮理事選任処分による原告らの選挙権の侵害は右選挙後も継続しているおり、それ故本件仮理事選任処分の無効確認を求める利益は未だ消滅していないと主張する。しかし、本件仮理事選任処分は、本件組合の理事が欠けたことに伴い仮理事を選任したものであって、原告らの選挙権についてなされた処分ではないから、原告らの選挙権が侵害されていることを理由としては、原告らに本件仮理事選任処分の無効確認を求める訴えにつき訴えの利益が有るということはできない。

なお、原告らは、本件仮理事選任処分において被告は公平な第三者とはいえない者を仮理事に選任したと主張するけれども、仮理事選任に当たり利害関係人がその候補者を推薦する権利を定めた法規は存せず、行政庁は、職権により仮理事を選任する場合は勿論のこと、利害関係人の請求に基づいて仮理事を選任する場合であっても、諸般の事情を総合考慮し当該組合の事務を執行するに適切と思われる者を仮理事に選任し得るのであって、その人選は行政庁の裁量に属し、仮に利害関係人が仮理事の候補者を推薦しあるいはこれにつき意見を述べても、右推薦や意見は法的効果を伴わず単なる事実上のものにすぎない。したがって、利害関係人は、仮理事に選任された者の適否について法律上の利害関係を有するということはできず、仮に利害関係人が右適否について利害を有するとしても、これは事実上のものにすぎない。

以上のとおりであって、原告らは、本件仮理事選任処分の無効確認を求める訴えにつき、訴えの利益を有しないものである。

二  請求の趣旨第二項の訴えの適否について

本訴は、判決によって被告に対し本件組合の業務の状況について検査の実施を命ずることを求めるものであって、いわゆる義務づけ訴訟に当たる。

いわゆる義務づけ訴訟について、行政事件訴訟法には明文の規定がないところ、行政庁が当該行政処分をなすべきことについて法律上羈束されており、行政庁に自由裁量の余地が残されていないために第一次的な判断権を行政庁に留保することが重要でなく、事前の救済の必要性が顕著であり、他に適切な救済方法がない場合においては、右訴訟も許容されるものと解される。

そこで、本件について右要件の存否を検討すると、法第九四条第一項によれば、組合員は総組合員の一〇分の一以上の同意を得て検査請求を行うことができるところ、右検査請求がなされた場合において、具体的な検査事項の決定は当該行政庁の裁量に委ねられていると解され、また、原告らが検査を請求する平成六年五月六日役員選挙につき、原告らにおいて被告に対して右規定による検査請求をする以前に本訴によって救済を求めなければならない顕著な必要性があると認めるに足りる証拠はない。したがって、原告らの本件義務づけ訴訟は、これを許容し得る要件を充たさないものというべきである。

三  よって、原告らの本訴は、いずれも訴訟要件を欠き不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大喜多啓光 裁判官笠松知恵子 裁判官髙橋祥子は、転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官大喜多啓光)

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